青木敏朗

2021年1月17日3 分

行動規範の変容

行動規範の変容

Don't be evil. → Do the right thing. → Do anything profitable.

 1998年、ラリー・ペイジとセルゲイ・ブリンによって創業されたグーグルについては、創業時からずっと応援し続けてきました。その理由は、創業時のCorporate Code of Conduct、つまり「社是」(直訳だと、「企業の行動規範」となるんでしょうが)が素晴らしいと思ったからです。その社是とは、Don't be evil.「邪悪になるな」というもので、私が知る限り、現代の欧米の企業がこういった社是を持つこと自体、異例だと思うし、人間社会において「冨と倫理」が両立することはとても難しいと思うからです。

 私は若い頃、「清貧に甘んずる」という武士の文化に源を持つ潔く清い倫理観に大きな憧れを持っており、起業家の中では、特にかつての経団連の土光敏夫会長の生き方に、今なお、大きな敬意と尊敬の念をずっと抱き続けております。

 大人になって多少青臭さの抜けた今、私は決して豊かになることや冨そのものを否定するものではありません。なぜなら、豊かさは人間の持つ可能性の拡大に大きく寄与するものであると思うからです。豊かさがなければ、子供に十分な教育を受けさせることも出来ないし、家族を満足に食わせることも出来ません。また、文化的に豊かな生活を送ることも出来ません。ですから、豊かさは、それ自体、決して邪悪なものではないと確信しています。

 しかし、豊かさが肥大し、権力と近づきすぎると、多くの場合、そこに腐敗が生まれ、邪悪なものになる可能性が高まります。そういう意味で、その危険性を予見しGoogleが創業時にDon't be evil.を社是に掲げたことは、素晴らしい事だと思うし、尊敬に値する行為だと思っています。

 ところが、2015年頃には、この社是は少し形を変えDo the right thing.「正しいことをせよ。」となり、2019年末に創業者の2人が揃ってGoogleを辞め、おおよそ1年経った今、勿論、正式に社是の変更を行ったわけではありませんが、私の考えるところ、実質的にDo anything profitable.「儲かることなら、何でもしろ。」になってしまったと考えています。

 なぜ、こんなことを申し上げるかと言いますと、昨日1月9日だったと思いますが、Googleはグーグルプレイからパーラーを削除したからです。グーグルがどちらの陣営にいるにしろ、世界的なテックジャイアントであり、独占的な検索サイトを運営している立場から、一方に肩入れして表現の自由を奪うことは許されないからです。ましてや、自由を建国の礎とするアメリカ合衆国において、そんなことをするなんて許されるはずがありません。

 それに先だって、アップルもアップストアから、同じくパーラーを削除してしまいましたが、既に最初から、悪魔にそそのかされて知恵の果実であるリンゴをかじってしまっていますから、彼らにはDon't be evil.などという高尚な行動規範を持ちうるはずは元々からないのです。

 今回の出来事は、正義や高潔な倫理を重んじる自由世界の人々に対して、つぶてを投げつけるような野蛮な行為で、決して許されるものではありません。私達は、今後の推移を注意深く見届ける必要があると考えます。

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